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東京藝術大学文化祭に潜入!

鬼才が集う芸術大学の最高峰、東京芸術大学の文化祭に潜入。

自らの入浴風景を作品にした女の子や苔クッション、おでぶちゃん御輿の苦労話を聴いてきた!

祭は御輿のパレードで始まる。

この御輿は1年生の美術部と音楽部の学生が学科単位でペアを組んで造り、みんなで担いで上野公園を回るのだ。

発泡スチロールで造られているこの御輿には、人が乗ってパフォーマンスをすることもある。



下段中央の写真は、友人のTちゃんが所属している油画科の御輿である。

「暑い夏をもっと暑く!」がコンセプトだそうで、おデブちゃんが箱の中に押し込められている。



この御輿の裏には大変な苦労があった。
完成後に、試しに御輿に乗った人が、御輿が壊れて落下したそうだ。
また、通常は御輿は3日間校門のそばに展示された後、芸祭のフィナーレにパレードをするのだが、メンバーが勘違いしてパレードの前に御輿を壊してしまったのだと言う。



合計200着の法被も、たった4人で1ヶ月間友人の家に合宿して作ったそう。音楽科の子の分の法被も作るのだが、彼女達にとっての指の怪我は一生に関わるので、無理に仕事を頼めないそうだ。その分美術科の子の負担は大きくなる。



確かに、ミシンやノコギリを使って巨大な発砲スチロールを削っていく作業には危険が伴う。だが、手指は美術科の学生にとっても傷つけられないものだ。多少慣れているとはいえ、危険なことに変わりはないのだ。



「直せるのかなぁ?」とTちゃんが心配していた御輿は、夕方には見事に修復されていた。

①苔カーペットクッション

たくさんの作品を見た中で特に印象的だったのは、ZENGARDEN。

























 

これは、黒い絨毯を和風家屋の庭に見立て、苔クッションの上に石を模した椅子を置いた作品である。この椅子には秘密がある。段差があるため、座ったままちょうど座禅を組める形状になっている。お尻を上段に乗せられるので、足を痺らせずに瞑想に浸れるようになっている。実はこの椅子は発泡スチロールでできているのだ。隣に座っていたお兄さんがうっかりお尻で削ってしまい、「やべっ」と冷や汗をかいていた。



②ポップコーンのお風呂からこんにちは

隣の絵を見ようと顔を動かしたらポップコーンのお風呂に入っている女の人いらしたので大変驚いた。

彼女は中空を眺めていたが、固まっているわけではなく、時折手を動かしていた。
紙粘土で作ったポップコーンには薄桃色のシロップがつけられており、苺の香りが漂ってきそうである。
気になったので勇気を振り絞って声を掛けてみた。

「どうしてこの作品にしようと思ったのですか?」
「お菓子やかわいいものが好きで、お菓子に囲まれることで楽しい気持ちになってもらえるから。」



彼女のポートフォリオをみると、チョコレートのお風呂に浸かっていたり、藝大の食堂の壁をパステルカラーのチョコレートで埋め尽くしたりしている。


「この作品を見た人にどんな印象を持ってもらいたいですか?」


「うーん、決まったものはないですね。それぞれに感じてもらえればいいと思います。」

京都弁で微笑みながら話して下さった。衝撃的な出会い方をした割に、落ち着いた雰囲気だった。

不思議ちゃん風でもなければ、変に堂々としているわけでもない。きちんと答えてくださるため、見ているこちらが不届き者のような気持ちになってしまう。


「触っても良いですか?」と、床に散らばっているポップコーンについて訊いたつもりだっが、彼女に対して質問しているように誤解させてしまい、一瞬不穏な空気が漂った。


彼女はときおり照れ笑いをしたり、見物客の視線に自然に目を反らしたりしていた。そのような人間的な表情が、人工の空間の中で際立っていた。



自分を作品にしている人を、もう一人発見した。
完璧なロリータ姿で無表情に練り歩いていた。「印象VS」と書かれた小さな紙が胸元に貼り付けられていた。題名なのだろう。こちらの方は目に灰色のコンタクトを入れていて、無機質で無表情だ。歩き方もゆっくりと仕掛け人形のようで、気味が悪いほど完成されていた。到底話しかけられる雰囲気ではなかったが、2日目も同じ服装で歩いていたので強烈な意志を感じた。

自分を作品にしながら他者の視線を受け入れまいとする矛盾がなぜ起こるのだろう。不思議である。何のために自分を他人にさらし、何を感じてほしいのだろう。ロリータが街に現れ始めた頃、なぜその姿で外を歩くのか疑問だった。ネットで質問してみたら、本物のロリータからは「好きな洋服を着てるんだから、普通の服を店で買うのと変わりません。ヘソ出しルック(ふつうおへそはだしませんよね?)と一緒です。」とお怒りのお手紙をいただいたが、腑に落ちなかった。高校3年次の卒業論文では8000字を費やしたが、とうとう答えはみつからなかった。





③昭和への反戦歌?















忘れられないのはこちら。ピカチュウやペコちゃん、風船が縁日に並ぶ一見ファンシーな作品である。「私の家族へ」と書かれているが、中央の教壇の中にある布には、三島由紀夫の演説文がつづられている。これは「戦車の中を想像する」という芸祭実行委員の企画である。「私の家族へ」と大きく書かれているが、どういう意味だろう。負の歴史をこれから背負っていかなくてはいけないことへの恨みを、上の世代にぶつけているのだろうか。ノスタルジックな時代として昭和が永遠に美化されていくことへの反感を表しているのだろうか。


毎年芸祭に行くと、学生の圧倒的なエネルギーと才能に触発される。自分も何かにひたむきにならなければ、と身を奮い立たされる思いである。同時に20年間自分は何をしていたのだろう、という気持ちにもなる。表現することにためらいや恥ずかしさを感じることの、愚かさにのたうち回りたくなる。

そして、帰り道には滝に打たれたような清々しい気分で、上野公園の夕空を眺めるのだ。

                                

                    文・取材 ドクガクテツガク編集部 かな子

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