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AntRoom 島田拓氏にインタビュー!

取材・写真 高橋ミホ(文) かな子(編集)

とあるテレビ番組で、アリについて語る島田さんをたまたま拝見した。
ほんの数分で、私はどうしても島田さんに会いたくなってしまった。
ちなみに私は特にアリのファンだというわけではない。だから理由はよくわからない。
数ヶ月経っても忘れられない。なんでアリ?アリ専門?アリが生業・・・?

とうとう私はアリ本の企画書を書くようにまでなっていた。もちろん監修候補は島田さんだ。

これはイカン。不健康だ。ここはひとつ、話を聞かせていただこうじゃないか。

ということで、思い切って取材を申し込んでみた。するとこんな返事が返ってきた。

「いいですよ。では、事務所のアリ部屋での取材でよろしいですか?」



アリ部屋にて

島田:アリって働いているイメージがあると思うんですけど、巣の中でもほとんど動かないんですよね。

なのでお客さんからも、「働きアリがあまり働かないんですけど…」とたまに問い合わせがきますね。



アリって、湿気が無いと生きていけないんですよ。「蟻マシーン」の裏に針があって、定期的に石膏に水を流し込むんですよ。
それで、湿気を保っています。




高橋:これが「蟻マシーン」ですか?


島田:はい。大きいのが蟻マシーン3号です。
この2号がちょっと小型のタイプです。
初めてアリを飼う方は、だいたいこの2号から飼育を始めて、数が増えてきたら連結していきます。


高橋:蟻マシーンも、島田さんが開発したんですよね。苦労しましたか?


島田:苦労はありませんでしたね。
日々試行錯誤しながらの製作は、とても楽しいものでしたね。今も、より良い形を常に考えていますが、商品として自信を持って販売できるまでには5年かかりました。

 

はじめての仕事は15歳



高橋:お店を立ち上げてから11年目とのことですが、今おいくつですか?


島田:今年31です。
一番最初に仕事を始めたのが15才のときです。
東中野に動物堂というペットショップがあったんですよ。
そこには野生動物の猿とか、ハリネズミとか、普通のペットショップでは売ってないようなのばかりを売ってるお店でした。


そこの一角で「自由なものを販売していいよ」と言われ、山から捕ってきたナメクジとか、ミミズとか、いろんな虫を販売してました。

その時にお客さんに虫の説明をして、お客さんが

「あー、すごいかわいいですね」って言って買ってくれたのがすごい嬉しくて。
「ペットショップで働こう」って、その時に思いました。


高2のときに仕事のほうが楽しくなってしまって、高2で中退して「動物堂」に勤めたんですよ。


高橋:高校2年で決断とは。迷いはなかったですか?



島田:この時は、まったく迷いはありませんでした。
両親は、高校は卒業してほしいと言っていましたが、夢中になると
それしか見えなくなる性格なので・・・。


ただ、その後、「動物堂」のお店の内容がガラリと変わりました。
今までは野生動物を扱うお店だったのが、フクロウ専門店になったんです。それをきっかけにそこを辞めて、別のペットショップに勤めることにしました。17歳の頃です。


そして次に、「爬虫類倶楽部」という中野にある爬虫類の専門店で
社員として勤め始めました。哺乳類担当として、猿などを売っていました。


AntRoomは20歳から始めてますね。
最初はほとんど趣味で、副業みたいにやっていました。



アリへの目覚め



高橋:もともと生き物好きだったと思いますが、アリに目覚めたのはいつですか?


島田: 15歳くらいのときですね。
ペットショップで働いてる頃に頻繁に山に行くようになりました。
山でムネアカオオアリの女王アリをたまたま拾いました。クロオオアリにそっくりなアリです。
それを持って帰って飼育してたら、

卵を産んで、一生懸命卵をなめて掃除したりして、それが幼虫になる。えさをもらった幼虫は2ヶ月後に働きアリになって、家族で協力して生きていく。その姿を見て、「なんておもしろいんだろう!」と思って。

それまでにかなり色んな生き物を飼育したんですが、今まで見たことない仲間同士で協力して生きていく姿に感動したんです。ハマり始めて、徐々にアリが増えていきました。



「何でも持ってきていいよ」って言われて。



島田:小さいころか生き物ばっかりです。
物心ついたときから虫ばかり探してて、目黒は比較的虫が少ない場所なんですけど、人の家の庭に入ってダンゴムシ探したりと、少ないなかでも探してました。


高橋:ご両親の影響でしょうか?


島田:両親は生き物をそんな好きでもなくて。
ただ、僕が持って帰ってきた生き物は「そんなの持ってくるんじゃない」って言われたことも1回もなかったです。

家に持って帰れば虫かごを買ってくれて、学校に行って世話できないときとかも、親が代わりにやってくれたりと、協力はしてくれてました。


小学校5〜6年生のときに、僕が生き物を好きなことを知ってた担任の先生に「何でも持って来ていいよ」って言われて。
山で捕ってきたトカゲとかカエルとか、ヘビもいました。
うちの教室は動物園みたいな感じで、窓側の机の上に虫かごが、並んでて、もうすごかったですね。 笑


かな子:クラスメイトは何て言ってたんですか?


島田:別に何も言わなかったですね。
うちのクラスはそれが当たり前になってましたから・・・
ヘビがいても別にキャーキャー言う友達もいなかったし・・・
お道具箱の中にもカメを飼ってて、引き出し開けるといる。 笑


中学・高校のときも、あんまり勉強した記憶はなくて、授業中にずっと虫の本ばっかり読んでました。


高橋:生き物全般以外にちょっとでも興味を持ったものってないんですか?



島田:ないですね〜。



 

島田拓(しまだ たく) プロフィール
2001年に立ち上げたアリの通販専門店AntRoom代表。
1981年東京都目黒区生まれ。動物園やペットショップで働き、たくさんの生き物を飼育し、現在に至る。

アリの素晴らしさを知ってもらうために日々活動中。毎日生き物にまみれて暮らしている。​



 

​高橋:へ〜。



Ant Roomのはじまり

「すごく面白いね。展覧会で置いてみない?」



かな子:AntRoomを立ち上げたきっかけは何ですか?



島田:一番最初は、「爬虫類倶楽部」のバイトをしていたんですが、一時期休んで、他のペットショップや東急ハンズ、上野動物園でアルバイトをしていました。



東急ハンズで一緒に働いていた先輩が、自分の絵を洋服屋さんや

カフェに飾っている人だったんです。

そのとき僕は、簡単な石膏でアリの巣を作っていました。

それを先輩に見せたら、

「すごく面白いね。今度展覧会やるから置いてみない?」って誘われて。そこで初めて人前にアリの巣を出したんですよ。

女王アリや巣の中でのアリの生活を見たことが無い人がほとんどなので、お客さんに驚かれました。



「やっぱりアリの世界って面白いんだな」って思い始めたんです。



それをきっかけに、友達に簡単なホームページを作ってもらい、

ペットショップで働く傍ら、アリの販売を始めました。



高橋:アリはどう仕入れているんですか?



島田:週に一回、近場の山に行って、穴を掘って採ってますね。女王アリを採るのが難しいんですけど、いないと長く飼育ができないので、探しますね。



高橋:ペットショップを傍らでやっていて、「アリだけで食べていけるな」と思ったのはいつからですか?



島田:3年前からアリだけですね。それまでは「爬虫類倶楽部」でのアルバイトを再開し、副業としてやっていました。



高橋:そうだったんですか。アリ・・・





日本だけで月に100〜150件の発送



かな子:毎月どれくらいの注文がありますか?



島田:日本だけで、月に100~150件の発送がありますね。

北海道から沖縄まで、全国に送ってます。リピーターの方も、新規の方もいますね。夏の時期は新規のお客さんが多くて、自由研究に使う方もいます。そこから、種類を増やしていく方も多いですね。



高橋:アリの需要、予想よりはるかに多いです。


かな子:お客さんの男女比に、違いはあります
か?



島田:8割が男性で2割が女性です。アリを飼われている方は、虫好きじゃない方が多いんですよ。今まで生き物を飼ったことが無い人も多いですね。
アリって一番身近な虫の一つで、意外と受け入れやすい形をしています。アリが家族で暮らしている様子を説明すると、愛情が芽生える人が多いですね。



高橋:ご自分で、なんで生き物が好きなのか理由を考えたことはありますか?



島田:ないですね。生まれた時から生き物が好きなので。虫が好きなのが当たり前で。目黒の同級生も、大人になるにつれて虫から離れていきましたが、虫への興味を失ってしまう方が不思議です。



高橋:じゃあこの職業を選んだのはごく自然な流れだったんですね。



島田:そうですね。ペットショップも楽しかったんですけど、好きなことばかりはできないじゃないですか。

今は完全に自分の好きなようにできるので、生活できるようになったら、仕事はすぐに辞めちゃいましたね。



高橋:お勤めをしているときや、独立してからでも、何か仕事に対して迷いが生じたことはありますか?


島田:独立したときは、自分一人ではなく妻がいたので、安定した収入を捨てて自営になることに不安はありました。


何もかも自分で考え、決め、行動しないといけないというのは、

雇われている時には感じたことのない不安というのがあります。

その逆に、「何もかも自由にできる」という、雇われていては絶対に感じることのできない自由や喜びがあります。


自分の性格には、誰かに雇われるよりも、今のような自由なスタイルが合っています。



高橋:つらいことはありますか?



島田:ないですね。



高橋:そうなんですか!そんなことってあるんですね。



島田:アリの採集は一日山を歩くので疲れますが、楽しいので、辛いことやストレスは一切ないですね。



高橋:動物を好きになりすぎて、人間を嫌いになることはなかったですか?



島田:それはなかったですね。



かな子:ご家族の方はアリを好きなことを何ておっしゃってますか?



島田:「がんばってね」と応援してくれますね。

妻は虫が苦手なんですけど。妻は中学の同級生なんですよ。

僕は中学生のときもタランチュラやサソリを学校に持って行っていたんですよ。なので、僕が虫を好きなことは昔から知っていて。

特に不思議には思っていないですね。子供は10ヶ月ですね。男の子です。歩けるようになったら、近所の公園に虫を探しに行きたいなと思ってるんです。



アリって、儲かりますか?



高橋:いいですね。
その、アリって儲かりますか?



島田:アリは、まぁ、生活はできてますね。

結構外国に行ったりするのも、お金かかりますね。
沖縄にも毎月行くので、旅費はかかりますけど、その分いっぱい採ってくればいいので。

ドイツだとアリがペットとして人気で、アリの専門店もたくさんあるんですよ。日本には今のところないんですけど。
ドイツは、爬虫類を飼育している人も多いですね。生き物の飼育に本格的に取り組んでいる人は日本より圧倒的に多いです。



かな子:なぜドイツで人気なんですか?



島田:寒い国なので、もともと生き物が少ないんです。爬虫類でも虫でもそうなんですけど。だからこそ、昔から、輸入した外国の生き物に力を入れて育てているんですよね。ドイツの人は、面白いんですよ。



引越しは働きアリが提案



かな子:島田さんとアリの生き方の共通点はありますか?



島田:家族や仲間と協力して生きているところですね。それがアリの一番の魅力ですね。


もちろん働きアリは女王アリのこと大事にしてるんですけど、

女王アリに仕えている雰囲気は全くないんですよ。どちらかというと、働きアリが中心になって作っている家族だと感じますね。
大きい巣になった後は、女王アリはただ卵を生み続けている存在であって、それを世話するのは働きアリですし。


働きアリは色んな仕事をしています。幼虫を育てるえさの量で、将来幼虫を兵隊アリにするのか、働きアリにするのかを決めること。新居を見つけたときに「引っ越そう」と言い始めるのも働きアリです。



高橋:なぜ働きアリが「新居に引っ越そう」と言うことが、分かるんでしょうか?



島田:新居を見つけると、働きアリが巣に戻って、仲間達に知らせるんですよ。細かい複雑な動きで伝えているんですけど、触覚で相手を叩いて口を引っ張るんですよ。

そして「後をついてこいよ」という感じで口を動かすんです。そのことで、引っ張られたアリが付いて行って、新居に移動します。それでも引っ越しが始まらない場合は、口をくわえて、相手の体を持ち上げて、新居に運んでいきますね。



高橋:強制的に・



島田:女王アリも、最後にずるずると引きずられて新居に運ばれていきますね。
なので、女王アリが中心にいるようには見えるんですけど、働きアリも自分たちで考えて行動していますね。



どういう人がアリを飼うの?


高橋:島田さんは、アリの社会を見るのが好きなんですね。アリ社会と人間社会を比較して、思うことはありますか?



島田:世の中で子供を虐待する親がいるじゃないですか。アリの方がよっぽど子育てが上手だなって思いますね。巣の中でも一見、幼虫が山積みされているようですが、ちゃんと下の方にいる幼虫にもえさをあげている。世話が行き届いてるんですよね。
人間が地球上に現れるよりも、ずっと前から社会生活をして、仲間同士で生きている。



かな子:アリを飼われる方は癒しを求めて飼う方が多いのですか?



島田:そうですね。アリはマンションでも場所を取らずに飼えるし、臭いもない。世話もそんなに大変でないので、都会の人には飼いやすい生き物なんだと思いますね。なかなか都会で生き物を飼うのは大変ですからね。



かな子:アリを飼えなくなった人が返品することはありますか?



島田:ほとんどいないですね。

アリは飼い主の手をかけると、どんどん育ってくれます。その反面、手をかけないと一気に数が減っちゃうんですよ。

日本の種類も地域ごとに遺伝子の違いがあって、同じ種類でも別の地域に放してしまうと、違う遺伝子が混ざってしまうので、問題になっていますね。



高橋:アリを飼ってくれるお客さんの傾向はありますか?



島田:趣味で飼っている大人が大半なんですけど、真面目に毎日仕事もしている人が多いですね。虫マニアの人は少ないです。夏休みの自由研究で飼うお子さんもいますが、全体的にはすごく少ないですね。
イベントの常連さんは20代から60代が多いですね。年輩の方で、退職されてからアリにはまった方も多いです。



島田さんは「ジャパンレプタイルズショー」などのイベントに出展されている。このショーはマニアックな動物の展示イベントだ。ダンゴムシやフクロウ、トカゲなどの珍しい動物が、愛好家によりブース別に展示されている。



ハリアリ、かなり人気です



かな子:お客さんは「蟻マシーン」をいくつ持っている方が多いですか?



何個も持っている方が多いですね。常連さんでクロオオアリを飼っている方がいるんですけど、この「蟻マシーン3号」を4台チューブで連結して飼っています。その人はすごい大事にしてますね。働きアリの数が2000匹くらいまでに増えてます。



最初はクロオオアリから買い始めて、最終的に、このハリアリに興味を持ってくれる方がすごく多い。アリ好きの中ではかなり人気なんですよ。
この原始的な感じと、この狩りをするところが面白いんだと思います。



一匹のハリアリが、もう一匹を壁から降ろそうと、足を顎で引っ張っている。



かな子:まだケンカしてますね。



高橋:しつこいなぁ。


島田:南米のアリは特に原始的ですね。

南米には今年初めて行ったんですけど、東南アジアは年に2回行ってますね。ボルネオとか、マレーシアとかインドネシアにもちょこちょこ行きますね。



高橋:アリがメインですか?



島田:はい。アリを採るだけではなくて、アリの研究者に同行することもありますね。大体研究者の人達と海外に行って、そこに住んでいるアリとかも調査してますね。



高橋:研究者の方と行くと、より面白そうですね。



島田:そうですね。個人だと入れない保護区にも入れて、許可を取れば採集ができるんですよ。僕はそこで自由にアリを採って、その後研究者の人にサンプルとして渡すんです。

研究者にとっても、僕にとっても、いいことがありますね。写真を撮ることが目的なので、採ったアリを日本に持って帰ることはあまりないです。



高橋:島田さんが特に愛着のあるアリはいますか?



島田:ここには50種類のアリがいますが、クロオオアリですね。

家に4、5年いるので、愛着は湧きますね。全然珍しい種類ではないんですけど。
 

 

​​アリ家族観察



アリまかせにしています

(蟻マシーン3号の中にいるアリ家族を観察)
島田:巣の中のゴミも、全部えさ場に運び出します。えさ場見ると、一番奥に、かすみたいのが山になってますよね。あれも全部、アリが巣の中から運び出したゴミです。
なので巣の中のそうじはすべてアリまかせにしてますね。。


高橋:アリまかせ・・・

島田:ゴミはちゃんと外に運び出すんです。

高橋:今アリにあげているのは、島田さんが開発したえさですか?


島田:そうです。アリ専用の粉末のえさです。蜜の味がするえさで、水でといてあげます。ほとんどこれで飼育できます。


島田:あ、今女王アリがここにいますね。
働きアリに囲まれていてわかりづらいんですけど、一番奥に一匹だけ大きいのがいます。常にたくさんの働きアリが、女王アリを守るために囲んでいます。


この巣の全部の働きアリは、この1匹の女王アリから生まれた娘たちです。女王アリはだいたい10年から20年の寿命があって、その間ずっと卵を産んで増えていきます。
部屋も使い分けをしています。


この白いツヤツヤしたのが幼虫なんですけど、ここが幼虫置き場、
ここは繭置き場になってて、ここは卵置き場なんですよ。
こんな感じで成長の段階ごとによって置き場所をかえていくんですよね。繭になると、繭部屋に働きアリが運んできます。


アリ語で「ごはんちょうだい」


ところどころで、働きアリ同士が口をつけてるんですけど、
それは食べた餌を吐き戻して仲間に分け与えてるんです。
アリは胃袋以外に、素嚢(そのう)という別の袋を持ってて、一時的に素嚢(そのう)に溜め込んだえさをあとから吐き戻すことができるんですよ。



もらう側のアリは、相手の頭を触覚でたたくんですけど、お腹がすいてるほど激しく叩くんですよ。「えさをちょうだい!」と。


かな子:あ、ものすごく叩いてますね。


島田:これはお腹すいてるアリですね。


高橋:もらってるのにちょっとずうずうしい・・・


島田:さらに見るポイントがお腹の大きさで、
えさをあげてるアリのほうがやっぱりお腹にたくわえてるので、お尻が大きいですね。


アリは卵の段階では、働きアリになるか兵隊アリになるか女王アリになるか決まってません。
働きアリが幼虫にあげる餌の量によって変わるんですけど、このちょっと体の大きいのが兵隊アリです。
兵隊アリは体が大きくて力があるので、大きいえさを運んだり、解体したり、などの力仕事を担当します。


高橋:もともと、どの子でもそういう素質はあるんですか?


島田:そうです。卵の段階では、女王にもなることもできるんですけど、それは働きアリが幼虫にあげるえさの量によって決まっちゃうんですよ。
とにかく、巣が作られ始めたばかりでアリの数が少ないときは、増やすことが先決なので体の小さな働きアリを大量に作ります。
働きアリの数が100匹から200匹になってくると、多少巣が安全になってくるので、集まるえさも増えてきます。
そうすると、だいたい全体の1割くらいの幼虫にちょっと多くえさをあげるんですよ。


そうすると、それが兵隊アリになります。
さらに5、6年成長して数が2000匹くらいになり、安泰になると、はじめて女王アリをつくりはじめます。
女王アリには、最初は羽が生えてるんですよ。一つの巣で何十匹も女王アリが生まれて、ある時期に一斉に巣から飛び立ちます。
飛び立って、別の巣のオスと交尾をすると、自分で羽をとって、自分で穴を掘って、そこから1匹で巣を作り始めるんですよ。
で、そこからまた新しい巣が始まります。
最初は女王アリは1匹で子育てをするんですよ。


仲間は全員同じ女王のにおい

かな子:個体同士で仲の良し悪しはあるんですか?


島田:働きアリはみんな仲がいいですね。


ただ、同じ種類であっても、別の巣のアリとは、もう出会った瞬間にケンカします。無理矢理一緒にしておくと殺し合いになってしまいますね。


女王アリは個々ににおいが違うんですよ。
生まれた瞬間に嗅いだ女王のにおいを自分の仲間たちって思うんですよね。
働きアリは定期的に女王アリに触れることで、女王アリのにおいを自分の体につけています。なので、ここにいる仲間たちは全員同じ女王のにおいが体についています。
別の巣の働きアリと出会うと、違う女王のにおいがついてるので殺し合いになってしまうんですね。
例えば、アリの中には別の巣のアリの巣から、幼虫とか繭を持って来て、育てる種類もあるんですが、そこで育つと、生まれた瞬間このにおいを覚えるので、仲間だと思って普通に生活します。

高橋:働きアリと兵隊アリの仲はいかがでしょう?

島田:仲いいですよ。


高橋:大きいなあって思ってるのでしょうか。

島田:多分そこまで気付いてないと思いますね。アリはほとんど目が見えないんです。
触覚で触れたときに、においとかで仲間を識別してるので、大きさとかほとんどわかってなくて。


パタンって仰向けになっちゃうアリもいます


高橋:あ、えさ食べ始めました。

島田:この時に素嚢(そのう)に餌をたくさんためこんで、
巣に戻って何をするかというと、できるだけたくさんの働きアリに、少しずつえさを分け与えるんです。
そうすると、えさをもらった働きアリは、「あ、こんなおいしい餌を見つけたのか」ということを知るんですね。
それで、このアリが巣に戻る間におしりから“道しるべフェロモン”というにおいを出して帰るんですよ。

高橋:道しるべフェロモン・・・

島田:はい。そして巣に帰って仲間に知らせると、その仲間はそのフェロモンをたどってえさ場まで行きます。それが何往復もつながると、よく公園なんかで見るアリの行列ができますね。

巣に戻る働きアリは、おしりを地面に引きずりながら帰るんですけど、それでにおいを地面につけてるんです。

アリはすごくキレイ好きで、これも今自分の体を掃除してるんですよ。前足で全身をこすって最後汚れを口でなめるんですけど、猫とか犬とかと同じような感じで自分の体をきれーいにします。仲間同士ですることもあって、仲間同士で体をなめて掃除することもありますね。
そうするとなめられてるアリは、すごい気持ちよさそうにして、
パタンって仰向けになっちゃうアリもいるんです。
本当にしぐさが猫とか犬みたいな、動物っぽいしぐさをしますね。


ゴミはゴミ部屋へ

島田: 今年生まれたばっかりの若い女王アリは、たくさんいるんですけど・・・
  
(がさごそ がさごそ。大きなケースを見せてくれる。中には小さなプラスチックケースが並ぶ)


島田:だいたい400家族くらいいます。
働きアリの大きさも小さいんですよね。最初は。
はじめは女王アリ1匹が体内に蓄えた栄養だけで幼虫を一生懸命育てます。なので、幼虫が栄養不足になるので小さいんですよね。数が増えてくると、集まるえさも増えてくるので、兵隊アリが生まれたり、働きアリ自体も大きくなります。
​
高橋:平面暮らしをしてても、部屋を分けるんですね!

島田:繭と幼虫で置き場がちょっと分かれるんですけど、
成長段階によって、置き場所を変えますね〜。


高橋:マメ! 笑

島田:下にティッシュペーパーを濡らしたのを敷いてるんですけど、アリたちが多少かじって、ケバだったティッシュも、ゴミの山に集めていますね。
女王アリのいる場所には、絶対ゴミを置かないで、必ず隅っこに追いやります。
地中っていう限られた場所で住んでいるので、ゴミを散らかしてしまうと、カビやダニがわいたりして、巣が汚れてるんですよ。
野生のアリもゴミ部屋にゴミがたまると、地上に捨てにいきますね。
アリがこういう掃除をするっていうのは意外と知られてないですね。
あとは死んでしまったアリなんかも、ゴミ捨て場や地上に運ばれます。
だいたい働きアリの寿命が1年くらいなので、1年後には全部入れ替わります。

かな子:死んだって理解するんですね。
高橋:それが不思議です。


島田:あっ、今死んだアリ運んできてますね。
かな子:どういう気持ちで運んでくるんですかね?

島田:これはもう、単なるゴミとして扱っていると思います。
死んで日数が経つと、生きてるときのにおいがなくなってきてしまうんですね。そのにおいで死んでると判断してます。

島田:外国のアリもいます。
日本のアリとは全然違いますね。特に熱帯に行くと、形の変わった種類がすごく多くて、キバの長いアリとか、日本にはいないような形のがいっぱいいます。
性格も、アリのグループによって性格が変わりますね。「属」っていうのがいくつもあって、「ヤマアリ属は比較的おとなしい」とか、「ハリアリ属は毒針をもってて狩りをする」とか。
ハリアリ属なんかも日本に普通に生息してて、そういうのは毒針があって、獲物を捕まえる、狩りをするアリですね。


掃除がすごく苦手で、散らかしてしまいます​・・・

島田:これはクワガタアリっていうアリなんですけど・・・
キバが長いんですよ。これはマレーシアとかに住んでるアリです。
毒針も持ってます。かなり大きな獲物でも、1匹で捕まえることができます。

かな子:あっ、ケンカしてますね、平気なんですか?


島田:アリは、普通は仲がいいんですけど。
この種類だけは、仲間同士のなかに順位があって、ケンカをして優劣を決める儀式があるんです。
ハリアリ類はアリの中でも原始的なグループなんですよ。
ハチから進化したのがアリなんですけど、
原始的なアリはハチに近いので、未だに毒針があります。
暮らしも、クロオオアリのような高等なアリに比べて原始的なので、仲間同士の争いがあったりします。ハリアリは、原始的なアリの特徴として女王アリと働きアリの体の差があんまりないんですよ。働きアリも卵を生むことができますね。

かな子:ハリアリは部屋の掃除はしないんですか?

島田:この原始的なアリは掃除がすごく苦手で・・・
一応ですね、この角に今トイレ作ってるんですけど・・・クロオオアリのように隅に寄せることはしなくて、そこらへんに散らかしてます。
あ、ケンカしてますね。

かな子:殺しちゃうことはないんですか?

島田:ないですね。そこまでは。多少加減はしてるみたいです。

(クワガタアリまだまだ観察中)
島田:見てると、ちょっと普通のアリよりも、あまり頭は良くなさそうな感じはしちゃいますね。笑

アリは日本だけで280種類以上いるんですけど、世界には1万種以上いて、種類ごとによって、性格や習性とかが全く変わってきます。
熱帯とか、南米とか行くとすごいでっかい強そうなアリがいます。
軍隊アリという、もう何十万匹、何百万匹っていう行列をつくって森じゅうの虫や生き物を食べちゃうっていうアリがいるんです。
そのアリは、森の生き物を食べ尽くしては巣を引っ越す生活を永遠に繰り返してます。今年南米に見に行ったんですけど、ものすごい行列で、森じゅうを走り回って、もうサソリとかタランチュラとか、何でも食べてましたね。
役割分担しています

島田:だいたい、全体の1割から2割が、地上に出てえさを集めるっていわれてます。
外ですごいたくさんのアリが地面を歩いてるじゃないですか。
あれは全体の2割で、残りの8割近くは巣の中に暮らしてます。
残りは巣の中にいて、えさ集めのアリが何往復もして、えさを運んできますね。

外に出てくるアリは、年上のアリなんです。
若いうちは、巣の中で安全な仕事をして、年をとってくると、地上に出始めるんです。事故とかで死んでしまうと、今度は次に年輩のアリが、出てくるようになりますね。


 



狡賢い蝶の幼虫​



島田:もう一個面白いのがあって、クロオオアリの巣に同居している蝶々の幼虫がいるんですけれども。

高橋:蝶々?

島田:クロシジミっていうシジミ蝶の幼虫なんです。

あっ、今アリからごはんもらってます。
「ごはんちょうだい」って、揺れながら。
右にいる大きいアリは、幼虫のお尻から蜜をもらっています。クロシジミはアリからエサをもらうかわりに、お尻から蜜を出します。
このクロシジミは全国的にどんどん数が減っていて、絶滅しちゃった場所も多いんですよ。昔は東京にもいたんですけど、もういないですね。なんとか保護したいので飼育を続けて、集めてきた場所でまた放したいですね。
これも面白いんですよ。一生懸命アリが世話をして、口移しでえさをあげている。アリは色んな生き物と共生関係を持っているので、他の生き物との関わりもすごく面白いですね。

かな子:クロシジミの幼虫は、アリにとってのペットのような感覚なんですかね?


島田:「蜜を出すから育てている」という考え方があったんですけど、最近の研究では、「蝶々の幼虫がアリと同じ匂いを体から出して、仲間になりすましている」と言われています。

高橋:へぇっ、なりすまし!?
かな子:計算高い・・・。


島田:アリは蝶のことを自分の仲間だと思っているみたいです。

かな子:可哀想ですね。


高橋:なんてこった。


島田:でもこのクロシジミは、アリから口移しでえさをもらうだけなので、アリへの害は無いんですよ。でも、他の蝶々の中では、アリの幼虫を食べてしまう種類もあって、アリの巣に進入して、どんどん幼虫を食べていくんです。
これも今、口移ししてますね。
全く違う生き物が同じ巣に暮らしていて、エサをあげたりもらったりというやりとりがある。今までいろんな虫を飼ってきたからこそ思うんですけど、もう本当にすごいなって思うんですよね。なんとかクロシジミを増やしていきたいんですよ。

かな子:そうなんですか。

島田:クロシジミの幼虫は卵から孵化すると、アブラムシの周りに集まるんですよね。アブラムシがお尻から蜜を出すので、それをクロシジミの幼虫がなめるんですよ。幼虫は一週間アブラムシの蜜を食べて成長します。アリもアブラムシの蜜を吸いにくるので、クロシジミの幼虫をみつけると、巣に持って帰って中に運び込むんですよ。で、地中にある巣の中で育てると。
かわいいんですよ、クロシジミが。

高橋:赤ちゃんを見て「かわいい」って思う感覚と同じですか?

島田:そうです。特に子供はかわいいですね。ムカデを好きな人は「かっこいい」って思う人が多いと思うんですけど、僕は「かわいい」ですね。

高橋:それは意外ですね。アリも「かわいい」ですか?

島田:アリも「かわいい」ですね。

かな子:奥さんも「かわいい」なんですか?

島田:えー、そうですね(照)

高橋:アリは「形が美しい」とかではなく、昔からそういう感覚なんですか?

島田:そうですね。

高橋:世界中のアリを集めて重さを量ったら、世界中の人間より重いって聞いたんですが。

島田:一応アリの世界では有名な話で、よく言われてますね。


かな子:自分がアリになりたいとは思わないんですか?


島田:アリになりたいと思ったことはないですね。

高橋:嫌いな虫はいないんですか?

島田:毛虫がだめなんですよ。
ムカデもサソリもなんでも好きなんですけど、毛虫だけが苦手で。
自分でもわからないんですけど。怖いし、気持ち悪い。見た目がだめですね。森に入るときには警戒してしまいます。

かな子:それを乗り越えてアリを採りに行くんですね。


島田:はい。前回も森から出たら、右手にでっかい毛虫がくっついていて、数時間はショックで森に入れませんでした。

かな子:アリに刺されることはないですか?

島田:よく刺されます。痛いですね。南米で刺された巨大なアリは痛かったですね。
巨大だとアゴが大きいのと、毒も強いんですよね。スズメバチと同じくらいの毒があるんですよ。

高橋:死んじゃうじゃないですか。

島田:命の危険を感じたことはないですが、ハチアレルギーの人は危ないって聞きますね。アレルギーも、突然出る場合もあるんですが。

高橋:もし、半年後死んじゃうって分かってたら、何をしますか?


島田:もう一回南米に行きたいですね。アリ見たいです。
南米は楽しかったですね。見たこと無い種類ばっかりいて。アリは、地球上に色んな種類がいて、繁栄しています。




カメラの腕もすごいです


高橋:これからお仕事をどうしていきたいですか?

島田:将来は、店舗を持ちたいですね。現在は通販専門店なんですけど、お客さんにも伝わらないことがあるので、実際にアリを見てもらえたらいいなと思いますね。
あとは、写真を撮るのが大好きなので、写真でも生活できるようにしていきたいですね。

高橋:小さいアリを普段どのように撮っているんですか?


島田:大体、マクロレンズを使っています。これは一ミリくらいの物も撮れますね。マクロ用のストロボが2個もレンズの先端に付いていて、光が届きやすくなっています。



高橋:写真は生き物をきっかけにはまったんですか?


島田:そうですね。
アリの魅力を伝えることが、アリの販売をしている楽しみの一つなんです。通販だと、写真で伝えるしかないんですよね。そのためには、アリの生活を綺麗に映したいなというのがあって。
飼育しているお客さんから、「観察が楽しいです」とか「アリを飼ってよかったです」と言われるのがやっぱり嬉しいですね。

アリの魅力を伝えたい、というのが一番先にありますね。アリの魅力をみんなに知ってもらって、その喜びを自宅でも体験してもらいたいって。

生き物なので、どうしても死んじゃうこともあるんですよ。病気とか寄生虫とか、色々な原因があるんですけど。たまに数ヶ月して、お客さんから「死んじゃいました」って連絡がくると、すごく悲しくなりますね。
でも、そこで諦めないでもらいたいですね。同じ種類のアリでも、突然死んじゃう女王アリもいれば、5年10年生きてくれる女王アリもいるので。なので、最初に飼っているアリが死んじゃった、っていうのを聞くと、特に残念な気持ちになりますね。そこでまた次のアリを飼ってもらって、喜びを見つけてもらえるといいんですけど。

とにかくアリを飼育して、観察していて楽しいっていうのを知ってもらいたいですね。



Ant Roomのホームページに載っている写真は、

島田さんが撮ったものだ。

初めて見たとき、どこか専門のところから写真を借りて載せてるのかな?と思ったくらい、素晴らしい写真を撮る。

一見の価値アリなので、ぜひホームページから写真を見ていただきたい。































島田さんにお会いして

本当はこの日、島田さんの仕事に対する考えや、半生など、島田さんのことを中心に取材するつもりだった。けれど取材開始から40分、なぜか気がつけばずっとアリの話を聞いていた。全体的に見てもアリ時間の方が圧倒的に多かった。

というか、島田さん自身の話を聞いてもいつの間にかアリや他の生き物の話になっていた気がする。

それほど生き物と一緒に歩んできた生活だったのだ。

島田さんは、生き物のどこが好きか理由はわからないそうだ。わからないけど、好き。それは、本物で最強の好きの気持ちだと思う。


しかし、アリ、おもしろかったです。


そして「アリの素晴らしさを知ってもらいたい」という言葉は本当だった。仕事のきっかけも、よろこびも、仕事の仕方も、すべてその言葉に集約されているのがわかった。ブレていない。
 

よく、好きな事を仕事にするのは幸せか否かという話を聞く。

今までいろんな意見を聞いたけれど、島田さんを見てると

そりゃ〜好きが仕事になるのが一番だと素直に思えた。
話を聞いててもそう感じたし、なんといってもイキイキと

してたから。
 この日、島田さんは少々声がかれていたのだが、きっと前日に

アリについて声がかれるまでしゃべってたんだな・・・と推測している。
ちなみに私はこの日以来、「今歩いてるこの下にも生き物が・・・」と思うようになり、なんだか不思議な気持ちだ。



                            

取材・写真 ドクガクテツガク編集部 高橋ミホ(文)、かな子(編集) 

                           

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