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透明の家、あらわる
夜の住宅街で見つけたものは、ガラス貼りの家だった。
一体何を思ってこのお宅を建てたのか。

1.ガラス張りの家を発見




煌々と灯りがともる夜の住宅街。
​ドクガクテツガク編集部のミホさんとお茶を飲んだ帰り道のことである。

​トイレに行きたくなった私達は、「最後に外で用を足したのは何歳のときか」を話しながら、路地を歩いていた。
すると、突然目の前にガラス張りの建物が現れた。
鉄筋の梁とドアノブ以外は全てガラスで造られている。
家の中は丸見えだ。水族館のような家である。

塀もないので、路地と家を隔てるものは何もない。
わざわざ覗こうとしなくても、玄関に靴が置いてあるのがわかる。
2階の部屋には、白い布のようなカーテンが掛けられているが、模様のように切れ目が入っている.
隙間から建物の中が見え、空調でカーテンが揺れる度に、リビングのソファや机も露わになる。

 

廊下や階段にはカーテンは掛かっていないので、完全に丸見えだ。私生活の半分以上を公開しているのだ。

ここが田舎ならガラスの家を建てる気持ちは分かる。「星も見えるし、楽しいだろう。
だがここは、都会の住宅街で、車が通れる路地に面している。隣の家との距離もかなり近い。

「家、ですかね?」

「建築事務所かパーティスペースじゃないですか?」
とミホさん。

言われてみると確かに、町づくりやエコ活動をする若者の集い場のようだ。どんな集まりなのだろう。
入ってみたら楽しいかも知れない。




2.住民登場

入り口付近でもたもたしていると、上から40代ほどの女性が2階から様子を見に降りてきた。
かなり警戒しているのか、玄関につながる階段の上に留まっている。ガラス張りの家なので、もちろんその姿も外から見える。

確実に怪しまれている。
その様子で、一瞬で住居だと察しがついた。

「なんですか?」

おしゃれな眼鏡を掛けた女性は、眉間に皺を寄せ、迷惑そうに鋭い視線を向けた。

「こんにちは。えーと、どうして外から見える家を建てられたのか、気になったんです。」

「あのう…なんなんでしょうか?」

かなり警戒し、怪しんでいる。目も合わさずに苦笑いをされてしまった。他の目的があって訪ねて来たと思われたのだ。
勘違いされては困る。

「夜分にすみません。このようなお宅を拝見したのは初めてだったので、どうしてここに住んでらっしゃるのか、それだけをお聴きしたかったんです。」

「・・・建築士と相談して建てたんです。」

私達の方を向いてくれなくなった。ドアもかろうじて開けている程度だ。
ガラス張りの玄関は丸見えなので、ドアを開けていようが閉めていようが、外側から見えるものは同じである。
けれども、家の中にいる女性にとっては、ドアを開けるのと閉めることは、意味が違うのだろう。

「興味を持った人が、私達のような者が訪ねてきたことは無いんですか?」と、ミホさん。

「ありません。」
​本当だろうか。通りかかって気になった人々は、訊きたい衝動をぐっとこらえていたのだろう。

ご主人も様子を伺いに来た。半分予想はしていたが、罪悪感が募ってくる。

「恐縮ですが、外から見られるのは、恥ずかしくないのですか?」

「外からはほとんど見えないので気になりません。理由は・・・いろいろです。」

かなり濁されてしまった。
無言の圧力を感じ、私たちはそそくさと退散した。
真面目で教育熱心そうな、知的なご夫婦だった。
個性的という感じではなく、保護者会で見かけるようなごく普通の方々だった。



だが、部屋の中がほとんど見えないわけはない。
奥の部屋の扉まで見えたのだ。むしろ見せつけられているような印象であった。デザインがどうのこうの、という次元を超えている。
ちなみに、ドアを通じて女性と目が合ったので、マジックミラーでもない。中からも外が見えるはずなのだ。第一見えなかったら、ガラスにした意味はないだろう。

 

これは一体どういうことなのだろうか。

ちなみに私たちは怪しまれるような感じではない。
女子の学生と、学生のような女子の二人である。
道を尋ねられたり、見知らぬお年寄りの方に話しかけられることもよくある。



そう思っていたが、怪しまれるのに思い当たる理由は他にあった。ミホさんがベージュのカーディガンを、前後逆に着ていたことだ。

午会ったときミホさんは、「今日の服のコンセプトは、お昼休みに出てきた病院の事務の人です。」と言っていた。無印良品のような服装であったが、白いブラウスの上に着ていたカーディガンのボタンを全開にし、いつのまにか服の背中側がお腹にくるように着ていたのだ。これは確かに怪しい。

けれども、前から見ただけでは気づかないはずである。
やはり、訊いたことを相当訝しがられてしまったのだ。

開かれているようで、開かれていない。
見せつけているようで、見せていない。
混乱と疑問符の洪水から、
3日経った今も抜けきれないでいる。

              文・ドクガクテツガク編集部 かな子
              
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