滝行をしてみた at御嶽山
ひょんな事から滝行をすることになった。
滝行とは、神道や密教などの修行方法のひとつで、滝に打たれるものだ。
ぼんやりとは知っていたが、実際はどんなものなのだろう。
特定の宗教を信仰していない一般のでも参加できる滝行は津々浦々あるようだ。
ここは東京・御嶽山。眼前には滝がある。
「いくたまー」
「たるたまー!」
「たまー たまるー たまー!!」
私は叫んでいた。そう、これは雄健(おたけび)。
おたけびをあげていたのだ。
そしてこの時、私は白装束に身を包んでいた。もちろん白いハチマキ付き、
おまけに白装束の下はスッポンポンだ。
私は御嶽山のとある滝で、滝行をしている。
①太っちょ神主との出会い
友人と山に2泊3日で行くことになった。
その子が探してくれた宿では、なんと滝行ができるらしい。
夏だし、気持ちよさそうだなあということで
いっちょ打たれましょう!と二人ともごくごく軽い気持ちで参加することにした。
が、滝行前夜、レクチャーがあるから出席するようにと夕飯時に言われる。
滝に打たれるだけなのに、そんなのが必要なのか。
そこで初めて目にする、引率役の神主さん。
日本でほとんどお目にかかれないレベルの太っちょだ。
あれ、神主さんて特に禁欲・節制はしないんだっけ、と思うのと同時に
私たちは直感的に、この人はスケベかもしれない、と感じたが
それはさておき、レクチャーを受けるにつれ、
これは真剣にやらないと罰が当たるかも、と緊張が走った。
滝行当日。
早朝に宿を出る。メンバーは男性4人、うち1人がウクライナの人。
女性は我々2人と30代後半の女性1人の計7人だ。
滝までの道中はしゃべってはいけない。
なんとなく神聖な雰囲気につつまれ、緊張しながら滝へ向かった。
が、引率の神主さん、説明のために時々彼だけは話すのだが、その中に
軽妙なしゃべりをはさんでくることがあるのだ。
なんのつもりだ。試しているのか?
滝に到着。想像よりも迫力のない、小さめの滝だった。
男性はフンドシ一丁になる。女性はテントで白装束に着替えるのだが、
ものすごい心の抵抗が打ち寄せてきた。
スッポンポンの上に着るのか・・・。これはすごいハードルだ。
100歩譲って着替えたとしても、ハチマキへの抵抗がどうしようもない。
さり気なくハチマキをせずに滝へ戻ると、神主からすぐに「ハチマキ!」と一撃。
本当の巻き方はわかっていたが、まだ羞恥心に打ち勝てず
カチューシャをするような感じで装着してみた。
「巻き方違う、こうだよ、こう!まあ私は髪がないから、わかりにくいかもしれませんがね(朗々)」(ちょっとハゲ気味)
「・・・わかります・・」
この神聖な場で、様々な思いを胸に滝行に来ている真剣な皆を前に声を張って教えてくれる神主。
ちょいちょい自虐ギャグをはさんでくる特徴があるようだ。
②舟漕ぎ動作にのせて「エッホ、エッホ」
滝に入る前にやらねばならないことがいくつもあった。
滝行とはただ単にやみくもに滝に打たれるのとは違うのだった。
まずは舟を漕ぐような動作をしながら、「エッホ、エッホ」次に
「エッサ、エッサ」と言う。
さらにその後、この動作に合わせて歌を歌う。
歌詞がちゃんと言えるように、歌詞ポスターが岩にもたれかかっている。親切だ。
その後、冒頭のおたけび。
最初はこの思わぬ展開に、ぼそぼそと
「たま〜・・たまる〜たま〜・・・」と蚊の鳴くような声で言っていたら、
案の定神主から
「声出てないよ!出して!」と叱咤が。
そんなこと言われても、全くオフェンスな気分にはなれない。
しかし妙な一連の動作である。儀式だ。
この自分たちのしている動作や、耳に入ってくる音、そして声。
緑深い朝もやのたちこめる滝のある景色。
しばらくすると、これ、もしかしたら現実じゃないのかもしれないとなぜか思い、
気付けばきちんと叫んでいる自分がいた。
神主「くにのーとこたちのーみことー(朗々)」
なんて気持ちよさそうに叫ぶんだ、神主。
皆「くにのーとこたちのーみことー!!」
よし、なんだか乗ってきた、皆も上気してるのがわかる。真剣な空気が広がってきた。
と思ってると、隣にいる友人のおたけびの声が聞こえてきた。
はっ、友人、叫んどるわ・・・、ふと我に返り、その場の空気を感じ取ると、
途端にものすごい面白さがこみ上げてきた。
「あーっはっはっはっは」
と腹を抱えることはしなかった。さすがに私も大人だ。
うまくその笑いを下に押し込んだり、鼻から出したりと工夫した。
ばれないように、うつむきながら言葉を発するときのポーズをとった。
(つづく) 文 高橋ミホ